私はこれまでに何度か、”奇跡”のような経験をしたことがある。
これは、そんな中のひとつ。
はじめて、子ども達をスキーに連れていった時のこと。
たっぷりと雪と戯れて、皆がベッドに入ってあっという間に寝静まった後、私はひとりで窓から外を見ていた。
冷たく、ひんやりとした窓に、体の一部をくっつけて、景色を眺めていた。
遠くに山の黒いシルエット、手前にはライトアップされた雪の斜面。そしてもっと手前の見上げた場所には、ホテルの建物にくっついたライトから、すぐ近くを照らす照明。
その一番近い照明からは、光の筋がのびて、その下には、空間が広がっていた。真っ黒の、空に通じる空間だ。
何もないはずの空間だが、よくよく見ると、そこにはたっくさんの、粉雪が舞っていた。
「さっきは降っていなかったのに・・。こんなに降ってるのね、ちょっと吹雪っぽい」なんて思いながら、私はその照明の下に舞う、たくさんの雪を、飽きることもなく眺め続けていた。
それは、本当に本当にきれいで、雪たちは光に照らされてキラキラとして、まるで星のようだと思った。星が、ダンスをしているようだった。時々うねっては、それは綺麗なラインを作り出し、まるで龍のようだった。
あんなにたくさん舞っているんだから、明日にはさぞかし、ふわふわの雪が積もっているに違いない。
そんなことをうっすらと、うっとりと考えながら、私は首が疲れるまで見続けた。
翌朝、起きると、雪は全然、積もっていなかった。
狐につままれたような気分で、天気予報を必死で探った。
やっぱり、降った形跡は、なかった。
あれは、雪ではなくって・・・やはり、星の舞だったのだと、今ではそう、思っている。
そしてそんな美しい奇跡は、日々、きっと、いろんなところに散りばめられ、発見されるのをまっているのだと、そんな気がしてならない。