もしもなっちゃんが大きかったなら。もしも私の身長と同じくらいになっちゃんの体長があったなら。
私はなっちゃんの背中を、両方の手の平全部を使って、ゴシゴシと、なでさするんだろう。
するとなっちゃんは、身を嬉しそうに震わせながら、いつものように両の翼をバサッと広げて、バサバサと伸びをする。
するとすぐ後ろの私の髪も巻き上げられるほどに、ブワサブワサと、風がおこる。周りに置いてあったもの、紙系のものは舞い上がり、家中の埃が、上へ下へと舞いまくる。
なっちゃんはそんなのおかまい無しだから、ひととおりいろんなものを飛ばして翼をのばしきった後、満足げに毛づくろいなんかするだろう。
私は、馬の首へ手をのばすように、私の腕を大きくのばして、なっちゃんの大好きなところ、頭のてっぺんとか頰の横なんかを、なでてやらねばならない。
嬉しがって毛を膨らませてくれるモードならいいけれど、気をつけなくてはいけないのは、ちょっと、なっちゃんが凶暴になる時だ。
この大きさでは、相手はペンなんかじゃないだろうから、本当に要注意だ。近くに来たものに、突進していきそうになったら、私は全身で全力で、なっちゃんの体においすがり、止めなくてはいけない。
羽を広げていなければ、首すじに抱きつく感じだろうか。もし翼も広げて行こうとしたら、どうしよう。鳥の体はつかみどころが少ない。それに、羽をガシッとつかんだとして、わりと簡単に抜けてしまいそうだ。
それも、したくない。やっぱり、早いうちに、ハーネスをつけておかなくては。なるほど、馬の手綱だ。
でも、もし、空を飛びたいと思った時には。ちょっとなっちゃんをその気にさせて、背中のあたりにしがみつかせてもらい、屋根の上をぐるっと一周してきてもらうなんて、できるかもしれない。
もちろんこの時も、しっかりハーネスと自分の体を縛っておかなくては。
そうして考えると、私はよく家で「翼をください」を歌うけれど、私自身に翼はなくても、仲の良い鳥が一羽いてくれたら、空も飛べるってことだな。
あぁ、鞍もなく直乗りで飛ぶのは怖いけれど、でも、わぁ、自分の家を上から眺めるなんて、なんて気持ちがいいことだろう。