「ねえママ、すごいよねぇ。べんりだねぇ。」
アリクイの子どもはキラキラとした瞳で、まっすぐに母をみあげた。
「そうねぇ。」
うなずきながら、アリクイの母は一抹の不安を感じずにはいられない。ごまかすように、窓の外に目をやった。
クマがたくさんの木を積んだ荷車をおしている。
”どれもみな、同じように、書かれている”
そして
”すべてはもう、書かれている”
遠い記憶からよみがえった言葉たちが、アリクイの母の頭にふいに姿をあらわす。
アリクイの母は、あの6年前の出来事を、決して忘れてはいない。あの、坊やが生まれるずっと前の、湿った夜の記憶。
信じる心を、失わせたくはないのだ。
だがしかし。
みな、気づかないままに一緒にまちがえていることだって、あるのだ。
窓からぼんやりと見つめるアリクイの母に気がついたのだろう。クマが、大きく優しく、左の手をあげた。