ああ
深い深い、夢をみる。
"おにいちゃん、しゅくだい、が..(んばって)"
と弟が指で、私の手のひらに文字をつづる間に、兄はサクッと宿題を終わらせてピアノを弾きはじめる。
苦笑するかのように、止まる指。
「早いね、お兄ちゃん、宿題しあげるの。」
と、私がいう。
"すごいね。"
と、指がこたえる。
今日はテレビで、クリスマスにちなんだ歌番をやってる。名曲なんかも、たくさん、流れてくる。
弟の言葉に、めずらしくちょっとハニカんでから、「千本桜」の早弾きに興じる兄。一方、テレビで森山直太朗うたう「さくら」に、息をとめて聴き入る弟。
こんなにも個性豊かで、こんなにも性格も好みもちがって、こんなにも、ありきたりの兄弟で、ふつうに家族の中の時間は流れるというのに、これが、一歩世間にでたら、当たり前でないという事実。
そして、私自身に思う、なんとも言えない、いたらなさ。時々、おそわれる、こんな気分。
もっともっと、してやれるはずなのに、みたいな。まだまだ、努力が足りないだろう、みたいな。けどどこかに、だって仕方ないじゃないとあきらめ混じりの、吐息のような。
今日も何でか、パソコン、急に落ちちゃったな・・・やっぱ外付けディスプレイが、いるのかな。県立図書館から借りたデイジー図書、何で再生できないのかなぁ。返却期限はいつだったかな、・・・ぼんやりと、考える。
彼らが彼らのままで、我が子らが、ごくごくありのままに、まっすぐに、思いのたけをぶつけあい、それぞれが、それぞれの社会をもち、過ごし場をもち、ケンカをし、母に反抗し、こっそり秘密話をしあい、時になぐさめたり、励まし合ったりまたやっぱり、ぶつかってはケンカして。
できない理由なんて、わたしには何一つ、見当たらないのに、実際には、そのほとんど何一つ、できていないようだ。まだ、はっきりとは、実現していないようだ。世の中的に、そんな事の実現があるなんて、思われていないようだ。
だから、やっぱり、
深い深いため息と一緒に、
夢をみる。
ぼやっとさまよう目が、サン=テグジュペリの上でとまって、ひょっとすると、『ぞうをのみ込んだウワバミの絵』を、密かに抱えて生きる、飛行士みたいなんだなぁ、きっと、なんて、思う。
(追記・・翌日手元にある『星の王子さま』の訳書をみたら、「ウワバミ」ではなく、「ボア」と書かれていました)